2014年03月06日

貿易赤字「再考」

前々回の記事(http://judgethinkwill.seesaa.net/article/390259558.html)で貿易赤字を「国際投資」と呼んだ方がよいと考えた。貿易ではトレードの概念を表現しきれていないとも考えた。でも代案である「国際投資」では海外と物のやり取りをしているというイメージを表現できていない。これではダメだ。また黒字赤字という表現も改めた方が良い。

ではどうするか。

そもそも貿易収支の「収支」がいけない。「収支」と言う呼び方には物事が終わった結果としての収入と支出のバランスというイメージが出ている。だが、貿易黒字・赤字は貿易によって未来において付加価値を生み出すために一時的になされる価値のやり取りであって結果ではない。これからも貿易をし続ける関係だからこその信頼の黒赤である。でも、「収支」ではザ・決算!という感じで、もうこれでしまいや!という感じが出てしまう。だから貿易赤字だと悪いように感じてしまう。

ならば、もう貿易収支と呼ぶのはあきらめて、「貿易資本」さらには「貿易資本投資」と呼ぶことにしたらどうだろう。「資本」ならば元手という意味であり、未来に向かって貿易をやり続けるんだ!むしろ今からが始まりなんだ!そのためのプラスマイナスなんだ!というイメージが表現できる。

そして赤字黒字は「受け(赤字)」「渡し(黒字)」と表現するのはどうだろう。「受け」「渡し」ならば数値でマイナス・プラスとなるイメージと連動しつつ、損失や利益の概念と縁を切れる。むしろ「受け」にお得感を少し出せる。実力(GDP)に見合わない極端な「貿易資本投資」を「受け」すぎるとギリシアように押しつぶされるイメージも出せる。

貿易赤字10兆円は「貿易資本(投資)」10兆円の「受け」であり、貿易黒字10兆円は「貿易資本(投資)」10兆円の「渡し」である。日本は今までは長らく貿易資本の「渡し役」だったが、これから貿易資本の「受け役」に回るわけだ。国際社会で果たす役割が変わっていくのである。


追記

ただし、上記のような貿易赤字は必ずしも悪とは限らないという判断は、あくまで経済理論上であることは押さえておくべきだろう。経済理論においては、電力会社のような、燃料輸入債務が直に電気代として国民全体に跳ね返ってくる半官半民のプレイヤーの存在を考慮に入れていないからだ。今の日本における貿易赤字の一部は、原発停止に伴う燃料輸入費増加であり、これはのんきに座視してよいものではない。

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2014年03月03日

貿易収支を理解する架空話

前回の記事(http://judgethinkwill.seesaa.net/article/390259558.html)の補完として、貿易収支を考えるための架空話を作ってみた。


架空話

とある世界に日本皇国とアメリカ帝国という二つの国があった。両国の通貨はともにゴールド(G)である。この両国は非常に仲が悪く国交は断絶している。貿易は全くない。だが、好奇心が旺盛で密貿易を試みようとする変人が両国に一人づつ存在した。日本皇国には和服の仕立屋の小泉君がいて、アメリカ帝国には洋服の仕立屋のブッシュ君がいた。両君とも自分が仕立てた服を相手に売りたいと思い、商品を製作し密かに接触した。

小泉君の手持ちの資金は100Gだった。それをすべてはたいて和服を一着仕立てた。ブッシュ君の手持ちの資金は50Gだった。それをすべてはたいて洋服を一着仕立てた。両者は密かに接触し互いの商品を吟味しあった。小泉君はブッシュ君の洋服に120Gの価値をみた。皇国市場で確実に120Gで捌ける。一方、ブッシュ君は小泉君の和服に150Gの価値をみた。帝国市場で確実に150Gで捌ける。両者の意思は合致し、その値で取引することに決めた。小泉君はブッシュ君に120G支払う義務を負い、ブッシュ君は小泉君に150G支払う義務を負った。両者の債務は相殺され、ブッシュ君が小泉君に30G支払う義務が残った。

でもちょっと待った!ブッシュ君は洋服の製作に手持ち資金をすべてはたいてしまっている。30Gなんて支払えない。その旨を小泉君に伝えた。取引は不成立か?

小泉君は考えた。もしこの取引が成立すれば、小泉君の儲けは50Gの価値がある。いまGで決済できないからといって、ブッシュ君との関係を解消するのはもったいない。今回のような取引をこれからも繰り返し行えば、小泉君は確実に儲かるし、それはブッシュ君も同じだ。いまブッシュ君は支払いができないかもしれないが、未来は明るい。この密貿易で利益を上げ続ければ支払う体力がつくのは確実だ。人生色々!貿易も色々!支払も色々だ!いいじゃないか!

小泉君はブッシュ君に、今回の30Gはツケでいいから、これからも取引しようと持ちかけた。ブッシュ君に異論はなくめでたく取引が成立した。


この架空話での決算
・小泉君の儲け 50G(150−100)
・ブッシュ君の儲け 70G(120−50)
・日本皇国の貿易収支 30Gの黒字(150−120)
・アメリカ帝国の貿易収支 30Gの赤字(120−150)


貿易収支の黒字も赤字も貿易による儲けとは全く関係がないのが分かるかと思う。アメリカ帝国にとっての貿易赤字である30Gはブッシュ君にとっては債務だが、アメリカ帝国にとっては債務でも何でもない。30Gの価値がアメリカ帝国経済に(ブッシュ君の未来の可能性への)投資として流れ込んでいるだけだ。一方、日本皇国にとっての貿易黒字は小泉君にとっては債権だが、日本皇国にとっては債権でも何でもない。密貿易で小泉君が得るはずだった30Gは本来は日本皇国内で消費または投資され、日本皇国経済を潤す30Gだったはずだ。しかし小泉君がツケにしたためにアメリカ帝国経済を潤す30Gになってしまった。貿易黒字を出すことは必ずしも良いことではないのである。


架空話で両国の通貨を共通にしたことと関係して…

貿易黒字をはじき出すことが是とされるには特殊状況が必要だ。それは両国の通貨が違うこと。かつ両通貨の取引相場が自由な変動相場ではなく政治的に固定されていて介入が必要なこと。そして相手国の経済圏が強力で、その通貨が基軸通貨となっているため自国通貨では国際取引できないこと、などだ。この場合は決済手段として相手国の通貨を稼がなければならないから貿易黒字は是だ。貿易赤字になるとやばい。

現実の日本の通貨「円」は基本として自由な変動相場で世界の大部分の通貨と取引できる。かつ通貨「円」は金貨や銀貨といった物質の希少性に価値の根拠をおく貨幣ではなく紙幣だ。特殊な債権証書だ。「円」は市場取引の多寡に応じて金融機関を通じて自由に創造される。取引需要が活発化すれば中央銀行が刷るまでもなく勝手に自由市場で増えるワカメのごとく増える。そして、それは「ドル」も「ユーロ」も同じだ。外貨獲得云々で頭を悩ます必要は全くない。だから、貿易収支を考える上では、通貨を共通のゴールドと設定して単純化した架空話から考えたほうがよりその本質が分かる。


追記

よく、なぜアメリカにはグーグルのようなベンチャー企業がよく育ち、日本では育たないのかという嘆きの声を聞く。だがアメリカは長年にわたり貿易赤字国である。それは諸外国が儲けた付加価値の一部がずっとアメリカに投資され続けてきたことを意味している。一方、日本はずっと貿易黒字国だった。それは日本国内での儲けの一部をせっせとアメリカに投資し続けてきたことを意味している。日本はその儲け(付加価値)を日本の若者に投資せず(与えることをせず)、アメリカの若者にせっせと貢いできたのだ。そんなことをしながら日本の貿易黒字を眺めて、アメリカを双子の赤字と揶揄し、勝手に勝った勝ったとホクホク顔をしてきた。日本にベンチャー企業が育たないのは当然である。

グーグルは日本の対米貿易黒字が育てたといえるかも。どの面下げて嘆けばよいのやら。(笑)
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2014年03月02日

貿易赤字とネーミングセンス

日本は貿易赤字国に「転落」したとよく言われる。しかし、貿易赤字国であることと国の繁栄とは全く関係がない。因果関係どころか相関性すらない。アメリカやカナダはずっと貿易赤字国であるが豊かだ。貿易赤字や貿易黒字と国の盛衰は全く関係がない。

日本は加工貿易で外貨を稼いで、その金で食糧やエネルギーを買っている。だから貿易赤字国になると食べていけない。そんな言説がある。全くでたらめだ。日本は別に加工貿易で食べているわけではない。加工貿易で儲かっている企業が多かったというだけに過ぎない。内需がしっかりしていて国内総生産をきちんとはじき出せば、資源がなかろうと、貿易赤字で国が貧しくなったりはしない。海外からきちんと物が買えている。貿易は勝ち負けがあるゼロサムゲームではないからだ。

では、なぜ某有名経済紙でさえ、貿易赤字と日本の衰退を絡めるような言説を垂れ流すのか。経済紙の記者が単に勉強不足というのが最大の理由かもしれないが、「貿易赤字」「貿易黒字」「貿易収支」という概念に対するネーミングセンスにも問題があると思う。

貿易収支というのは一年間における国内と国外で生じた付加価値(もうけ)の流れの決算である。国全体の輸出額(EX)から輸入額(IM)を引いたものである。市場のプレイヤー(個人や企業)が獲得した貿易による付加価値(もうけ)は貿易収支には現れない。貿易黒字は貿易による付加価値(もうけ)を示していないし、貿易赤字も貿易によって損失を出したことを示していない。国と国というマクロの枠組みにおいての貿易(トレード)では付加価値(もうけ)が生じ得ないからだ。日本国内で生じた付加価値が海外に流出した額と日本国外で生じた付加価値が日本国内に流入した額との比較で貿易収支の黒赤が決まる。貿易黒字とは日本国内で生じた付加価値が海外に流出していることを意味するし、貿易赤字とは海外で生じた付加価値が日本国内に流入していることを意味する。貿易黒字は日本国内で生じた付加価値が海外市場でその価値が見出され投資(長期的視野で売買)されていると解釈できるし、貿易赤字は海外で生じた付加価値が日本市場でその価値が見出され投資(長期的視野で売買)されていると解釈できる。「貿易」というより、日本と海外の「トレード」の総決算である。日本国の国内で生じた付加価値と、外国の国内で生じた付加価値のやりとり(投資)の総決算である。

一年間で日本国内で生じる付加価値の総額は国内総生産(GDP)である。GDPを支出面からみると、その用途は消費に回されるか投資に回されるしかない。貿易黒字になるということは、このGDP(付加価値)の一部が国外に投資されることを意味する。日本のGDP(付加価値)が消費(C)と民間投資(I)と公共投資(G)だけでなく、海外に流れちゃっている(EX−IM)のが貿易黒字である。貿易赤字は逆に外国のGDP(付加価値)の一部が日本国内に流入していることを意味する。そのお金で消費(C)が拡大し、C+I+Gの合計がGDPより大きくなる。

上記のような概念の相関性を考えると「貿易収支(international trade balance)」という概念は「国際投資」と呼び変えた方が適切ではないかと思う。貿易赤字というより国際投資が赤字なのだ。貿易黒字なのではなくて国際投資が黒字なのである。「貿易(とりかえる)」という概念では狭すぎて、EX−IMの概念をうまく説明しきれていない。だから誤解を招く言説がでてくる。「トレード」という概念は「貿易」よりはるかに広い。ただ単に現在の利益をもとめて財物をとりかえているのではない。未来においてさらなる豊かさを生み出すためにトレードするのだ。

大切なのは貿易赤字を嘆いて、何が何でも貿易黒字国に返り咲こうとするのではなく、貿易黒字国から貿易赤字国に変化していく日本の実態ををよく観察し、変化の原因を突き詰めて対策をたてていくことだ。そのときに無理に流れに逆らう必要はない。下手に逆らうと無理がたたって病気になる。貿易赤字(国際投資が赤字)でも豊かになる道はいくらでもあるのだから…。というより日本市場(内需)が活発だから貿易赤字になるのであって、どちらかというと赤字の方が実質として豊かのである。


まあ、黒字赤字という呼び方も変えた方がいいかもしれないけれど・・・。


※以下の記事も補完としてご覧ください※
・貿易収支を理解するための架空話
http://judgethinkwill.seesaa.net/article/390421866.html
・貿易赤字「再考」
http://judgethinkwill.seesaa.net/article/390656101.html




タグ:貿易赤字
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posted by あれるげん at 13:18 | Comment(5) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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